人の自律的適応能力を引きだす新しい治療法を実現する
一般社団法人サイバニクス複合治療学会(Association for Cybernics-Combined Biotherapeutics (ACCB))は、病気や障害によって損なわれた機能を単に補うのではなく、人に本来備わる自律的な適応能力や成長発達能力を引き出し、その人自身が再び環境に働きかけ、学び、変化していくことを支える治療法の実現を目指しています。
病気や障害の後にも、人が新しい身体や環境との関係を形成し、自ら試み、学び、適応していくことができる。その力を支援することが、これからの治療において重要だと考えています。
疾患修飾療法等とサイバニクス治療を組み合わせる
近年、疾患修飾療法の代表とされる薬物療法、遺伝子治療、核酸医薬、細胞療法に加え、超音波・磁気を利用した治療など、疾患の原因や病態そのものに働きかける治療が急速に発展しています。
一方で、疾患の進行を抑制したり病態を改善したりすることができても、疾患修飾薬だけで、失われた身体機能や認知機能が十分に回復するのは困難であることが分かってきています。
そこで私たちは、疾患原因や病態に働きかける疾患修飾療法などの生物学的治療と、人の随意意思・身体・機器・環境の相互作用を通して学習と適応を促すサイバニクス治療を組み合わせる「サイバニクス複合治療」という考え方を発展させてきました。
これは複数の治療を単純に併用するという考え方ではありません。それぞれの治療を、どのような患者に、どの時期に、どのような順序や方法で組み合わせれば、人に備わる可塑性や適応能力を最大限に引き出すことができるのかを科学的に明らかにしていく、新しい治療学を目指すものです。

ACCB:ロゴに込めた想い
■デザイン
ACCBのロゴは、WHO(世界保健機関)のロゴや、医療・医学の象徴として知られるアスクレピオスの杖に見られる「二つの絡み合い」のモチーフを取り入れてデザインされています。
この絡み合う二つの線は、生命の設計図であるDNAの二重らせんを想起させると同時に、バイオテクノロジーと工学技術という、異なる二つの領域が組み合わさっていく様子も表しています。薬物療法、遺伝子・細胞治療などの生物学的治療と、サイバニクス治療という工学的アプローチを組み合わせる——ACCBが目指す「サイバニクス複合治療」そのものの姿を、このロゴに込めています。
■色
ACCBのロゴには、水色を基調としたものと、ベージュを基調としたものの2種類があり、いずれも同じデザインを異なる配色で表現しています。ロゴを構成する色には、それぞれ次のような意味を込めています。
・水色:天の色であると同時に、生命の源である水を表します
・緑:生命、そしてバイオを表します
・銀色:メカニクス、ひいてはサイバニクスを表します
・ベージュ:土、そして大地の色を表します
水、生命、機械、大地——これらの異なる要素が一つに絡み合う様子は、生物学的な治療と工学的な治療を組み合わせ、人が本来持つ自律的な適応能力を引き出していくという、ACCBの理念を象徴しています。
研究成果を、次の研究と医療へ
わが国では、2010年代に厚生労働科学研究費補助金やAMED事業等による研究支援のもと、HAL医療用下肢タイプの医師主導治験が実施され、サイバニクス治療の有効性と安全性の検証が行われました。その成果は、医療機器としての実用化と臨床現場での使用へとつながってきました。
しかし、新しい治療領域をさらに発展させるためには、一つの機器、一つの疾患、一つの診療科、一つの研究領域だけでは十分ではありません。
薬物療法、遺伝子・核酸・細胞治療、医療機器、リハビリテーション、ロボティクス、人工知能、データ科学、アウトカム評価などは、それぞれ異なる学術領域や学会の中で発展してきました。その一方で、それらを患者一人ひとりの治療という共通の視点からそれらを横断的に結びつけ、複合治療として検証するための研究の場は、まだ十分とはいえません。
新しい研究の萌芽は、異なる専門分野の研究者や医療者が互いの知識や経験を共有し、「この治療とこの技術を組み合わせることができないか」「この患者群にはどのようなアウトカムを用いるべきか」「どのような研究デザインなら検証できるか」と議論、相談するところから生まれます。
ACCBは、研究成果を共有する場であると同時に、研究を始める前の情報交換、研究相談の場を目指しています。さらに、共同研究、多施設連携を促進する場でありたいとも考えています。
日本から世界へ、多領域が出会う研究基盤を
サイバニクス複合治療が対象とする課題は、日本だけの課題ではありません。
高齢化、神経・筋疾患、脊髄障害、認知症、慢性疾患などに伴う機能障害と、それによる本人・家族・社会への負担は、世界共通の課題です。同時に、遺伝子・細胞治療、医療機器、デジタル医療、人工知能などの新しい技術も、国境を越えて急速に発展しています。
したがって、異なる国、専門領域、職種、研究機関、企業が相互に情報を交換し、研究課題を共有し、新しい複合治療を共同で検証していくための国際的な研究交流が必要です。
本学会には、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士をはじめとする医療・福祉専門職だけでなく、医学、薬学、生命科学、神経科学、工学、ロボティクス、情報科学、人工知能、データサイエンスなどの研究者・技術者、さらに製薬企業、医療機器企業、バイオテクノロジー企業、デジタル医療関連企業などの研究・開発に携わる方々の参加を期待しています。
また、「人間にとって自律とは何か」「治療によって何を変え、何を守るべきなのか」「病気や障害とともに生きるとは何か」という問いは、医学や工学だけでは十分に答えることができません。哲学、倫理学、人類学、心理学、社会学、教育学、法学など、人文・社会科学との対話も不可欠です。
異なる専門性を持つ人々が出会い、互いの言葉を学び、研究を相談し、新しい問いを立て、共同して検証していく。人が病気や障害の中にあっても、自ら世界に働きかけ、学び、適応し、その人自身の人生を歩み続けることのできる治療法を創る。
そのための学際的・国際的で実践的な研究基盤を形成することが、一般社団法人サイバニクス複合治療学会の設立理念と言えます。
公開日:2026年9月1日
最終更新日:2026年9月1日